「失礼ですが星野さんでは」と声をかけた。まさにご本人だった。「よくわかりましたね」という。それもそのはず、お互い顔も知らないし、メールの交換などもなく全くの初対面だった。
声をおかけしたのは、数年前に秋田で西垣正信氏から手作りのすばらしい弦を作る人を紹介されたことによる。ガット弦を本物の腸から作る。巻き弦まで作ってしまう。それが星野さんだった。
そんな弦を張れるような楽器をなんとか作りたいものだと思っていたが、ズルズルと今になってしまった。
コンサート開始を待って私の隣りの席に座った星野さんは「今、弦をあげましょうか」という。作っている楽器のタイプを言うと「じゃこれだね」と言ってカバンから取り出す。
真鍮の巻き弦のセット。厚かましいと思いながらも誘惑には勝てずその貴重な弦を頂いてしまった。恐縮の極みだった。
そしてコンサートが始まった。
【前半】
『魔笛の主題による変奏曲』(ソル):大西氏作ガダニーニ
『「私が羊歯だったら」の主題による変奏曲』(ソル):奥氏作ラコート
『グランホタ』(タレガ):山下氏作トーレス
『リュート組曲(BWV998)プレリュード、フーガ、アレグロ』(バッハ):黒田氏作ミルクール
このバッハが絶品だった。シッカリとしたベースラインの上に和声が美しく流れていく。感動のあまり黒田さんに「すごいですね、感動しました」と伝えると黒田さん、「東京に弦を作っている方がいてその弦を使わせてもらったんですよ」と言う。「星野さんですね」と言うと、驚いたように「ええ」と。
それにしても星野氏手作りの真鍮弦を張った黒田さんのミルクールすばらしかった。ご本人は「演奏がすばらしいのはもちろんだけど、楽器とのマッチングが良かったんですね」と謙遜される。
インターバルに居なくなった星野さんが、後半開始前に席に戻ってきて私に話しかけた。「オリジナルのラコートを持ってきている人がいるので、それを弾いてもらおうと思ってね」と言う。
【後半】
そしてその言葉の通り、後半開始時には1920年代に作られたオリジナルのラコートを持ったキム・ヨンテさんが登場し『月光』(ソル)を演奏した。オリジナルのラコートを聞くのは初めてだった。また貴重な体験をさせていただいた。
その後は、
『涙の賛歌、セレナーデ、郵便馬車』(メルツ編シューベルト):田中氏作ラプレボット
古典調律のラプレボットの和音は、とても気持ちがいい。すんなりと耳に入ってくる。
『ロッシニアーナ1番』(ジュリアーニ):加納氏作ガダニーニ
鳴りやまない拍手に応えてのアンコールでは、コストのエチュードなどを大西氏と田中氏のまだ弾いていなかった楽器を使用して演奏。
楽器が変っても(おそらく全てが今日初めて触れる楽器)すばらしい演奏をする力量に驚いた。それどころか、演奏の随所に「その楽器の持つ魅力を最大限に引き出してあげたい」というキム・ヨンテさんの気持ちが表れていたような気がする。
『19世紀ギター展示会&コンサート』。キム氏本人もブログに書いておられるが、すばらしい企画だったと思う。
アットホームな雰囲気に包まれた展示会&コンサートだった。ぜひまた開催して欲しいものだ。
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